大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所久留米支部 昭和49年(少)978号 決定

少年 N・N(昭二七・一二・二四生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

少年院に収容する期間は、昭和五〇年三月三一日を限度とする。

理由

一  非行事実

少年は、成年に達する直前の昭和四七年一二月二二日当庁において窃盗、毒物及び劇物取締法違反保護事件により福岡保護観察所の保護観察に付され、現に保護観察中の者であるが、保護者および担当観察官の指導、監督にもかかわらず、依然としてシンナー嗜癖が改まらず、昭和四八年一一月三〇日からシンナー嗜癖を絶つため大牟田市○○町所在の精神病院に入院したが、その後も病院内で粗暴な振舞をしたり、無断退院を反復してはシンナー吸入を続けるなどし、さらに、昭和四九年八月一七日病院自室の毛布に火をつけ、扉の支え棒を燃やすなどのことがあり、このまま放置すれば、本人の性格、環境に照し、将来罪を犯す虞れがあるものである。

二  法令の適用

少年法三条一項三号イ、ニ

三  主文記載の保護処分に付する理由

本件は、昭和四九年八月二七日福岡保護観察所長から、犯罪者予防更生法四二条にもとづき通告を受けたものであるが、調査および審判の結果によると、少年について上記虞犯事実が認められる。

少年はシンナー、ボンド吸入等による虞犯保護事件により中等少年院送致の保護処分を受け、仮限院後、またも上記非行事実欄記載のとおりシンナー吸入等により保護観察に付されたがシンナー嗜癖はいつこうに改まらなかつた。少年は無気力で積極的な生活を維持しえない資質的な弱さをもつており、これがシンナー耽溺の原因の一つになつていると考えられるが、現在では少年自身がシンナー耽溺から抜け出そうとする意欲さえ示しておらず、また、シンナー吸入のため知力や意志力が次第に低下してきていることも窺われる。

保護者は母親のみで少年に対する愛情はあるものの監護については全く自信をなくしており、保護観察も担当観察官の熱心な指導にもかかわらず、少年にこれを受け入れる気持が全くなく、効果をあげていない。また、少年には現在シンナー吸入に伴う身体的疾患は全く見られず、上記病院ではこれまでの少年の心身の状況、入院態度等からして病院における治療対象ではないと考えていることが認められる。

以上の事実に照らすと、少年がシンナー嗜癖を絶ち、かつ健全な社会人として社会に適応するためには主文掲記の期間を限度として特別少年院に収容し、矯正教育を受けさせることが必要であると思料する。

よつて、犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 吉本徹也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例